相続手続きと銀行実務 その②
公開日:2020-11-28 14:58
目次
前回は、相続手続きと銀行実務その①を取り上げました。
今回は、その②として、遺言書、特に自筆証書遺言がある場合の銀行実務を取り上げます。
自筆証書遺言とは手書きの遺言書のことです。
自筆証書遺言には、下記のような厳格な要件があり、
□全文自書
□日付の記載
□氏名の記載
□押印
一個でも要件を欠いていると即無効となります。
(民法改正により、一部緩和はされておりますが……)
また、預金債権の特定を誤ったり、文言を間違えてしまい、折角書いた遺言を使っての手続きが出来なくなってしまうケースがよくあります。
下記に、過去手続きに使えなかった記載例を掲げます。
・「○〇銀行は妻○〇に任せる」と記載されている。(管理させることなのか、相続で取得させるのかが不明瞭)
・遺言内容をスマホに録音している。(電子機器は、容易に改ざんされる可能性がある為、遺言として認められません。)
・押印がない。
・ワードで本文を記載し、氏名と押印のみがある。
上記の様な事例では、遺言を利用しての手続きが一切出来なくなる可能性があります。まずは、作成前に司法書士等の専門家に見てもらったほうがよいでしょう。
上記の要件をクリアして、晴れて遺言を利用しての手続きに進んだ場合、
多くの銀行さんにいわれるのが、下記の事項です。
① 「当行では、公正証書による遺言しか受け付けしません」
②「遺言に加え、相続人全員の実印と印鑑証明書を取り付けてください」
③「遺言執行者を立ててもらえないと受付できません」
自筆証書遺言も有効要件を満たしており、かつ家庭裁判所で検認手続きをすれば、法律上公正証書遺言と同じ効力を有するのですが、実務では、①と②の事項をよく言われます。
また、遺言を書く方は、
・子供たちの仲が良くない。
・前妻との間にお子さんがいる。
・行方不明の子がいる。
などの事情を踏まえて書いているケースが多くあります。
そのため、上記②のように、相続人全員の実印・印鑑証明書を取り付けるとなると、そもそも遺言を書いた意味がなくなってしまいます。
このような場合、ご自身で銀行と交渉するよりも、司法書士等の専門家に遺産整理業務を委任し、銀行に交渉してもらったほうがよいでしょう。
また、③のような指摘を受けた場合も、家庭裁判所に対して専門家を遺言執行者とする申立を行うことで、迅速に手続きを進めることができます。
遺言がある場合の銀行の対応もそれぞれですから、お早目に専門家にご相談下さい。
執筆:司法書士法人 鴨宮パートナーズ