借金等がある場合の相続手続き②~限定承認編~
公開日:2020-11-28 15:07
目次
相続が発生すると、ご相続人は法律上、下記の3つの選択肢の中から手続きを選択することとなります。
① 単純承認(プラスの財産もマイナスの財産も一切合切相続するということ)
② 相続放棄(プラスの財産もマイナスの財産も一切合切相続しないということ)
③ 限定承認(マイナスの財産も相続するが、そのマイナスの財産(借金)の弁済は、相続財産の中から弁済し、相続財産の中から弁済しきれないものについては責任を負わないという選択)
実務上、圧倒的に多いのが①、続いて多いのが②です。
②のケースは、もはや遺産が借金しかない場合や、遺産に借金はなく不動産があるけれどほとんど価値が無く固定資産税を払いたくない、そして売却しようにも買い手がつきにくい場合等が挙げられます。
今回は、実務でほとんど選択されませんが、知っておく価値のある③のケースをご紹介致します。
限定承認は、適正な手続きを取って各債権者に弁済をし、余剰財産があれば相続人が取得することが出来るという制度です。
一見すると聞こえはいいのですが、必要書類も手続きの流れも、前回ご紹介した相続放棄の手続きよりも格段に複雑になります。
一般的には、債務超過になっているかが不明で、相続放棄をした方がいいかどうか判断できない場合や、債務超過だが家業の承継のため相続財産の一部だけは確実に取得したい場合等に有効な制度です。
限定承認は、相続人全員が同時に申立をしなければなりません。
この際、借金等のマイナス財産も含めた相続財産の目録を添付しなければならず、事前の財産調査が必須となります。
また、限定承認申立後、家庭裁判所は相続人の中から相続財産管理人を選任します。この相続財産管理人は、相続財産の管理及び清算手続きを行うこととなります。
相続財産管理人は、亡くなった方の債権者に対し、官報(国の機関紙)公告をしたうえ、知れたる債権者(取引銀行等)には各別の催告(通知と同義にとらえて頂いて結構です)をしなければなりません。
この手続きでは、相続財産に不動産等が含まれる場合、これを換価(売却してお金に換えること)していく必要があります。
この換価手続きは原則、民事執行法に規定する競売の方法により行われますが、限定承認者が買受けを希望する場合には、家庭裁判所が選任した鑑定人が評価した財産の価額を支払うことによって、競売せずに買受けることが出来ます(これを先買権の行使といいます)。
この先買権の行使をすることによって、例えば、亡くなった方の財産のうち、家業を承継する為に必須となる不動産のみを取得し、その他の債務は相続財産の中から支弁する、ということができるようになります。
上記手続きを終えると、相続財産管理人は、申し出のあった相続債権者に対し、相続財産をもって弁済します。
弁済が終了してもなお残余の相続財産がある場合、相続人間で遺産分割して当該財産を取得していきます。
※キャピタルゲイン(増加益)への課税
限定承認をすると、相続税とは別に、みなし資産譲渡所得税という譲渡所得税が発生します。相続が開始した時の時価で資産が譲渡されたものとみなされ、譲渡所得税が課税されることとなるのです。この課税リスクについては、税理士でも判断が難しい事項です。
みなし譲渡所得税は、相続財産から支払うこととなります。万が一支払えない場合でも、相続人固有の財産から支払う義務はないと言われていますが、事前に税理士への相談はしておいた方がよいでしょう。
このように手続きを紐解いて行くと、司法書士・税理士等が連携を図りながら進めていく必要があることが分かります。また、ご相続人にも相続財産に対する管理責任や競売手続き、相続財産の鑑定人選任申立手続きを伴うことから多大なご負担がかかります。そのため、家業を承継して相続財産の中から特定の財産のみを買い取りたいといったような特別の事情がない限り、あまり選択されることのない手続きです。
もしも、特別な事情等がある場合、お早めにご相談下さい。
執筆:司法書士法人 鴨宮パートナーズ