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[不在者財産管理人]遺産分割協議と行方不明者

公開日:2020-11-28 15:09

目次


相続の手続きは、各ご家庭の置かれている状況、家族構成やその関係性によって変わり、まったく同じ事案というのは一つとしてありません。

 

今回は、相続人の内の1人に行方不明者がいる場合の相続手続きを解説いたします。

 

亡くなった方が遺言書を残されていない限り、相続が開始すると、その保有財産は各相続人に法定相続分の割合で帰属します。

下記の例をご覧ください。

 

例)故人、妻、長男、長女の場合

故人死亡後、遺産(不動産、預貯金、株式等)のすべてについて、妻2分の1、長男4分の1、長女4分の1の共有状態となります。

 

この共有状態を解消する(例えば、一切の遺産を妻が取得する)為の話合いを、法律上遺産分割協議と言います。

 

遺産分割協議は、相続人全員で合意をしさえすれば、法定相続分の規定に関わらず、どういった分け方でも自由に出来ます。

 

妻が一切の遺産を取得するという内容は、実務では多く見受けられるパターンです。

 

ところが、今回のテーマのように、相続人の内の1人が行方不明となっている場合、このままでは相続人全員がそろっていないため、遺産分割協議が成立しません。

 

この場合、遺産分割協議を実現していく為には、行方不明の相続人を不在者と位置づけ、当該不在者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「不在者財産管理人の選任申立」をしなければなりません。

家庭裁判所に選任された不在者財産管理人が行方不明者の法定代理人として遺産分割協議に参加して、他の相続人と遺産分割協議を成立させていくのですが……

この不在者財産管理人の選任申立、意外と厄介な手続きなのです。

 

民法上、不在者とは、「従来の住所又は居所を去って、容易に帰来する見込みのない者」を指しますので、申立段階ではこの事実を明らかにしていく事に重きを置いていきます。

 

家庭裁判所に提出する資料としては、

 

  申立書

  利害関係を証する資料

  不在者の戸籍謄本及び戸籍の付票

  財産管理人候補者の住民票

  不在の事実を証する資料

  財産目録

 

等です。上記のうち取得・作成するのが一番難しい資料が不在の事実を証する資料です。これは、家庭裁判所が行方不明者を不在者と認定し、行方不明者の為に財産管理人を選任すべきか否かを判断する為の、最も重要な資料といえます。

 

不在の事実を証する資料の作成方法ですが、まずは不在者の住民票上の住所に手紙を送り、「あてどころに尋ねあたりありません」といった郵便局のスタンプを取得します(不在者の住民票や戸籍附票等の、役所発行の住所証明書の住所欄が職権消除されているときを除く)。

次に、確実に不在者が住民票上の住所にいないことを確認するために、現地に赴き現地調査(別人の居住の有無、生活感があるか否か、ガスメーター等の作動状況、表札等の確認)を行います。そして、現地写真付きの調査報告書を作成して裁判所に提出します。

不在者の親族の方や隣地住人の方等、行方不明者が不在になったいきさつを知っている方がいれば、その方にも陳述書を書いてもらい、裁判所への説明資料とするのも手段のひとつとなります。

 

不在者財産管理人として選任されるのは、主に弁護士・司法書士です。しかし、相続人とならない親族を候補者として申立をしている場合であって、遺産が少ない場合はその親族が管理人に選任されるケースもあります。

 

晴れて、不在者財産管理人が家庭裁判所から選任されると、当該不在者財産管理人と他の相続人との間で、遺産分割協議をしていきますが、不在者財産管理人が選任されたケースでは、前述のような柔軟な遺産分割協議(妻が一切の遺産を取得する等)を成立させることは原則困難となります。

なぜなら、不在者財産管理人は、全体の遺産に対する不在者の法定相続分を確保した遺産分割協議でなければ調印に応じないためです。そこで、例えば妻に一切の遺産を取得させたい場合は、不在者への代償として、法定相続分通りのお金を支払うケースが一般的です。

 

まれに、遺産分割協議書に「不在者が帰来・出現し、請求された場合は、相続人●●は不在者●●に金〇円を支払うものとする」との帰来時弁済型の遺産分割協議が、不在者財産管理人及び家庭裁判所に認められる場合があります。これは下記のような一定の要件を勘案し、その他すべての事情を総合考慮しても帰来時弁済型の遺産分割協議をしても問題ないと家庭裁判所に判断された場合に限られます。

 

  代償金を弁済すべき他の相続人の資力が相当程度ある

  不在者の年齢や帰来可能性の有無

  遺産総額に対する不在者の法定相続分が100万円程度である

 

上記要件の内、3つ目の判断材料についてはあくまで指針に過ぎず、実務上200万円~400万円でも帰来時弁済型の遺産分割が認められたというケースはよくあります。

 

不在者財産管理人選任における現地調査や調査報告書の作り方、遺産の調査、

申立後の帰来時弁済型遺産分割の許可の見込み等は、高度な専門性とノウハウが無ければアドバイスが出来ません。

 

まずは、一度、司法書士等の専門家にご相談下さい。

 

執筆:司法書士法人 鴨宮パートナーズ