相続手続きと法定後見制度
公開日:2020-11-28 15:25
目次
認知症、知的障害、精神障害などの方が相続人に含まれる場合、相続手続きの一環として、必ず申立てしなければならないのが法定後見制度です。
今回は、相続手続きで必要な法定後見制度をテーマにお話をしたいと思います。
まず、法定後見制度は、認知症などのために判断能力を欠く、又は不十分な成人の方(未成年者は親権・未成年後見で対応)の財産管理・身上監護を適切にする為に設けられた制度です。
本人やそのご家族などから家庭裁判所への申立があると、認知症などの症状・度合いに応じて、家庭裁判所が成年後見人・保佐人・補助人を選任していきます。この区分けは以下の民法上の規定によるものです。
成年被後見人…精神上の障害により事理弁識能力を欠くもの→成年後見人
被保佐人…精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分なもの→保佐人
被補助人…精神上の障害により事理弁識能力が不十分なもの→補助人
相続手続きを行っていく際、故人が遺言を残されている場合を除き、遺産分割協議という、相続人全員での遺産分けの話し合いが必要です。相続全体の90%以上は、この遺産分割協議により手続きが行われます。
遺産分割協議は、各相続人が保有する法定相続分を任意に譲受けたり、譲渡したりする法律行為です。よって、その意味や内容を適切に把握して意思表示をすることが重要となります。
この点、認知症などの方は、普通の方と比べると判断能力が十分です。遺産分割協議の中で他の相続人に上手く言いくるめられたりと、自己の法定相続分を安易に失ってしまう危険性があります。
そもそも、症状が重い場合は、意識がなく寝た切りであったりと、全く意思表示が出来ない例も少なくありません。
そこで、真正な遺産分割協議の成立を確保する為、前述の法定後見制度を利用して、判断能力の不十分な相続人の財産(ここでは法定相続分)を守ろうという運用がなされています。
法定後見制度のうち、実務上圧倒的に利用例が多いのが、成年後見人と保佐人です。
成年後見人とは、成年被後見人の法定代理人と位置づけられ、日用品の購入等を除き、全ての法律行為を代理していく、いわば親権者のような仕事をする人のことを指します。
一方、保佐人とは、民法13条に規定された法律行為(遺産分割協議や売買契約、建物の大規模修繕、借入、保証契約等)に関し、被保佐人がした法律行為(例えば遺産分割協議)に同意を与える仕事をする人のことです。
どちらの制度も、利用するためには民法で定められた申立権者(配偶者、四親等内の親族、検察官等)が家庭裁判所へ申立しなければならず、これを怠ると相続手続きがストップしてしまいます。
その為、司法書士等の専門家が相続手続きの相談を受けた際、相続人のうち、認知症の方等がいることを伺った場合は、真っ先に後見等の申立から進めていきます。
ところで、この後見等の申立、どのようにしていくのか?とのご相談を受けることが良くあります。
おおよそ、家庭裁判所が指定する必要資料を下記にまとめますのでご参照下さい。
□親族関係図
□申立書
□診断書
□診断書付票
□本人の健康状態に関する資料
介護保険認定書、療育手帳(東京都は「愛の手帳」)、精神障害者保健福祉手帳、身体障害者手帳などの写し
□本人の戸籍謄本
□本人の戸籍の付票
□登記されていないことの証明書
□後見人等候補者の戸籍の付票
□申立事情説明書
□親族の同意書
□後見人等候補者の事情説明書
□財産目録
□収支状況報告書
□財産関係の資料(通帳・保険証券写し、登記簿謄本等)
□負債資料の写し
遺産分割の場合は、上記資料に加えて成年被後見人等の法定相続分が確保された遺産分割協議案を添付していかなければなりません。
なお、ご家族の方から「自分で手続きしたい」とのご相談を賜ることがありますが、法律や事務作業、資料収集に精通した方でないとまず不可能に近い手続きかと思われます。法務局や官庁での書類取り寄せもあることから、お仕事をされている方はなおさら難しい手続きと言わざるを得ないでしょう。
また、被後見人の方の財産関係をよく知っていない場合は、通帳の過去の履歴を見て、毎月どのような引き落としがあり支出がどうなっているのか、どのような保険契約があるか等の情報を読み解いていく必要があります。通帳や保険証券の読み方は慣れていないと非常に煩わしいものです。
後見等申立の費用に関しては、
申立手数料、収入印紙800円
登記手数料、収入印紙2600円
郵便切手、5000円ほど(裁判所に都度確認)
で申立が出来ます。
自力で手続きをされる場合は、申立添付資料の収集実費を含め、総額約2万円で手続きが出来るでしょう。
後見等申立を司法書士等の専門家に依頼する場合は、これに別途報酬がかかることとなります。
※後見等申立に関する業務は、司法書士か弁護士しか出来ない決まりとなっています。
最後に、良く受けるご質問で、「母の成年後見人に長男である自分がなりたいが、なるにはどうすれば良いか?」というものがあります。
誰を後見人にするかは、本人の財産状況・被後見人と後見人候補者との関係性、居住関係等全ての事情を考慮して、家庭裁判所が職権で決定することになります。つまり、後見人への就任を希望しても、確実に後見人に選任されるとは言い切れないのです。
東京家裁の運用では、金融資産500万円を超えると一般的に専門職後見人といって、司法書士が選任されるケースが多いと言われています。
また、全国的な統計をみても、司法書士等の専門職が選任されるケースが7割にのぼり、親族後見人が選任されるケースは少ないと言えます。
成年後見人の申立手続きから審判確定には、通常3か月~4か月のお時間を要します。相続人のうちに認知症の方がいらっしゃる場合等は、お早目にご相談されることをお薦め致します。
執筆:司法書士法人 鴨宮パートナーズ