遺言の種類と書き方~自筆証書遺言編~
公開日:2020-11-28 15:11
目次
わが国の遺言の種類は、民法に数多く規定されております。通常の場合は、下記の3種類の遺言の方式から選択します(感染症で隔離施設に隔離されたり、船舶事故等で緊急に船舶内で遺言を書いたりする場合を除く)。
①自筆証書遺言
②公正証書遺言
③秘密証書遺言
実務で司法書士が良く目にするのは、①の自筆証書遺言と②の公正証書遺言です。
※上記のうち③の秘密証書遺言とは、遺言の内容を誰にも公開せずに秘密にしたまま、公証人に遺言の存在のみを証明してもらう遺言のことです。この方式を選択される方は、ほぼいらっしゃいません。
今回は、①の自筆証書遺言について解説いたします。
自筆証書遺言の有効要件・書き方
自筆証書遺言は、下記の要件がすべて満たされていなければ、無効となりますので、事前に司法書士等の専門家にご相談しておく事を強くお薦めします。
□原則全文を自署
□日付の記載をいれる
□氏名の記載
□押印があること
上記のうち、全文を自署する要件について、2019年1月13日から施行された改正民法により方式が緩和されました。遺言の目的とする財産の記載は、登記簿謄本の写しや通帳の写しを添付(各写しの毎葉に氏名と押印が必要)することで、自署の代わりとすることができるようになりました。
上記要件は、あくまで有効要件です。遺言者の死後の不動産の名義変更や預貯金の解約等の諸手続きに遺言書が使えるかどうかとは別の問題となります。従いまして、遺言書の作成にあたっては、相続開始後の諸手続きを見据えた書き方というものが非常に重要となります。
また、公正証書遺言を除き、遺言は家庭裁判所による検認手続き(改ざん等を防ぐ証拠保全手続き)が必要となります。どうしても費用をかけずに自力で書きたいという方を除いては、公正証書による遺言作成の方が効果が絶大と言えるでしょう。
それでは、実際の書き方について見ていきます。
内容としては、誰に何を渡して行きたいかを記載していればそれで充分です。
例を挙げると以下のようになります。
遺言者は下記財産を妻●●に「相続させる」。
●●銀行●●支店 普通預金 口座番号 ●●●●●●● 残高全額
所在 新宿区●●
地番 ●●番
地目 ●●
地積 ●●㎡
ここで注目すべきワードは「相続させる」との文言です。
多くの遺言には、妻●●に「あげる」「与える」「贈与する」「譲る」「遺贈する」との文言が書かれています。
しかし、これらの文言は、不動産の名義変更や預貯金の解約をする場合に、法的に遺贈と解される余地があり、遺言とは全く関係の無い相続人に協力を求めなければいけない場合が出てくるのです。
では、相続と違い、遺贈にはどのような意味が含まれているのでしょうか?
例えば、ご自身のお父様が、生前中にある物を他人にあげるなどの処分行為をしたまま、その履行をせずに死亡した場合、当該処分行為の履行義務は、相続人全員に引き継がれます。そのため、各相続人は互いに協力し、相手方に物の引き渡しをしなければなりません。
遺贈は民法上、自己の財産を「他人」に与える「処分行為」と解されています。そのため、上記の例と同様に、遺言の効力が発生した瞬間(すなわち遺言者の死亡の時)に、その財産の移転義務が相続人全員に承継されます。よって、遺言書に遺贈すると記載されていた場合、遺言の内容を実現するには、原則相続人全員の協力が必要となるのです。
遺言は、遺言者が死亡したあとに、相続人の内の1人から判が貰えなさそうといった理由で作られるケースが多くみられます。
せっかく、妻に一切の財産を与えたくて書いた遺言書に「遺贈」との文言が使われたが為に、不仲の長男の実印・印鑑証明書を要する事態になったのでは元も子もありません。
※なお、相続人の1人に対し「相続させる」との文言を使って遺言を書いた場合は、基本的に上記の様な事態には陥りません。
法的な効果を考慮した文言や、実際の手続きに対応出来るかは、相続に精通した司法書士にしか判断できないものです。
遺言を書こうと思った時、または亡くなった方の遺言書が見つかった場合は、お早目に司法書士等へご相談されることをお勧め致します。
執筆:司法書士法人 鴨宮パートナーズ