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遺言が無効となるケース~公正証書編~

公開日:2020-11-28 15:22

目次


前回に引き続き、遺言が無効となるケースで、今回は公正証書編を取り上げます。

 

自筆証書遺言と比べ、公正証書遺言は無効となる割合が非常に少なくなる傾向があります。

なぜならば、公正証書遺言は司法書士等の専門家と公証人が、遺言者本人からヒアリングした内容を基に、死後の不動産の名義変更の観点を踏まえながら、作成を進めていくからです。

また、相続財産に不動産が含まれる場合は、登記簿謄本・評価証明書等公的書類を取り寄せて不動産を特定していく為、記載間違い等により無効となるケースはほぼありません。

 

しかし、公正証書遺言であっても無効となるケースは存在します。代表的なケースは、下記の2つです。

 

  遺言作成時点において遺言者本人が認知症等を患っており、遺言能力がないと判断される場合

  司法書士等の専門家が関与しておらず、本人と公証人のみで遺言を作成した場合

 

 

については、従来から問題視されているのですが、私見を述べると、避けられないと言っても無理はないかもしれません……

 

なぜなら、公証人は医療の専門家でない為、「あなたは認知症であるから遺言をする能力がない」と判断が出来ないからです。

実務上、本人を目の前にしてこれを言うことは非常に勇気のいることで、人権的な観点からも非常にリスキーな事柄なのです。

 

軽度から中程度の認知症患者は、通常の生活が出来、必要最低限の質問にもはきはきと答えられる傾向があり、初回の会話の印象では通常人となんら変わりません。

 

しかし、ずっと会話をしていると、同じことを何度も繰り返し発言したり等、重要な財産の処分等をする能力は有しない場合が一定程度存在します。

 

そのため、後日、遺言無効確認訴訟を提起され、無効確認判決が出てしまうことがあるのです。

 

しかし、遺言者が認知症だからといっても、遺言が無効になるとは限りません。

 

遺言無効確認訴訟において、裁判官は「公正証書遺言は公証人が作成しているのだから有効なのではないか?」との推測から入っていくのが通常です。

また、民法では遺言は15歳になれば出来ると規定されていることから、完全な成人と比べて判断能力が乏しくても、遺言は有効との推測が働きます。

 

訴訟提起をした相続人が、当時の遺言者のカルテを主治医から取り付けた場合でも、認知症であったから一律無効との判断が下される訳ではなく、当時遺言者が置かれていた事情・遺言を書くに至った動機・経緯、遺言の内容等を総合考慮して判断が下されます。

 

上記から言えることは、まずはご高齢で遺言をされる場合、きっちりと医師の診断書を取り付けることが重要です。診断書の取得には困難を伴いますが、医師に粘り強く交渉してみましょう。

 

また、遺言書には本文の他、付言事項(法的効力のないメッセージのようなもの)を盛り込むことが出来ます。何故このような遺言内容にしたのか、経緯や動機を出来るだけ本人の言葉で表現していく事もお薦め致します。

 

 

一方、の場合で問題となるのは、遺言は有効だが、公証人が的確にアドバイスをせずに作成したが為に相続手続きに利用出来なくなったケースです。

の場合で遺言が無効となるケースは非常に稀です。)

 

ここで、実例を1つ取り上げてみます。

 

「遺言者●●は、遺言者の長男●●が遺言者の妻●●の生活の面倒一切を看ることを条件として、遺言者の財産一切を相続させる。」

 

との遺言がなされたケースで、遺言者死亡後に不動産の名義変更を長男から依頼されました。

 

上記事案の遺言内容の内、最大の問題点は「条件」と言う文言です。

 

この遺言を用いて不動産の名義変更をしようとした場合、妻の生活の面倒一切を看た事を立証しない限り、法務局は手続きをしてくれません。

 

さあ、どうやって立証するのでしょう?

 

生活の面倒一切を看ることという抽象的事実の立証は、非常に困難を伴います。

また、裁判所と違い、法務局は事実認定を業務とはしていません。そのため、この事例では、登記申請前に法務局へ相談をしたところ、どういった書類を付ければ条件が成就したかを判断しかねるとの理由で、手続きを受付けられないとの回答が返ってきました。

 

上記のような事態を防ぐため、司法書士が遺言作成の相談を受けた場合は、死後の不動産の名義変更まで想定して、「負担」という文言を使っていきます。

 

実際の遺言条項では、下記のとおりとなります。

第1条   遺言者●●は、遺言者の財産一切を遺言者の長男●●に相続させる。

第2条   前条の負担として、長男●●は遺言者の妻●●の生活の面倒一切を看なければならない。

 

といった具合に作成していきます。

 

負担という文言を使えば、前記のような条件成就の立証書類は全く不要となります。実質的な意味内容は同じでも、条件と負担とでは、民法上の扱いが大きく変わってくるのです。

 

司法書士の関与なしに遺言者本人と公証人のみで遺言を作成する場合、死後の不動産の名義変更まで想定して遺言書の文言を決めることが難しくなります。

 

したがって、特に遺言の対象に不動産が含まれる場合は、登記の専門家である司法書士を遺言書作成に関与させたほうが無難といえます。また、司法書士にも分野ごとに得手不得手がありますので、遺言・相続が得意な司法書士にご相談いただくほうがより望ましいでしょう。



執筆:司法書士法人 鴨宮パートナーズ