遺言が無効となったケース~自筆証書遺言編~
公開日:2020-11-28 15:20
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自筆証書遺言の場合、形式的有効要件として全文自署・日付・氏名・押印が無ければ無効であることは、前回までに触れました。また、自筆証書遺言に限って言えば、改ざんや偽造が立証され無効又は不成立となるケースが稀にあります。
今回は、過去に扱った事案で自筆証書遺言が無効となったケースを取り上げて行きたいと思います。
90歳の老人が2016年8月20日に死亡し、遺言が後日自宅金庫から発見されました。
その遺言には、長男に全ての財産を相続させるとの内容が記載されていました。
更に後日、日付を異にし、遺言内容も全く異なる別の遺言が発見されました。
その遺言には、長女にすべての財産を相続させるとの内容が記載されていました。
両遺言の作成日付は、長女へ相続させるとした遺言が2016年8月1日付、長男へ相続させるとした遺言が2016年8月16日付。
民法上、2以上の遺言の内容が異なる場合、後の日付の遺言で先の日付の遺言を取り消したことになります。
したがって、上記事案においては、2016年8月16日付の長男へ相続させるとした遺言が効力を有することとなります。
しかし、後に発見された長女へ全て相続させる旨の遺言と、先に発見された長男へ相続させる旨の遺言を見比べると、明らかに字体が違うのです。
長女へ相続させるとした2016年8月1日付の遺言は、震える手で書いたと推測される筆跡で記載がなされていました。一方、 長男へ相続させるとした2016年8月16日付の遺言は、その字体が明らかに90歳の老人には書けないだろうと思われる楷書で書かれていました。
遺言者は末期の肝臓がんに侵され闘病生活を行っており、8月16日には生死を彷徨うような状況であった為、長男へ相続させるとした遺言は、遺言者が本当に自署したか疑義が残ります。
この点につき、法務局での遺言を利用した不動産の名義変更・金融機関の預貯金解約等は、形式的に審査を進めますので、上記事案について長女への遺言が有効で長男への遺言が無効であるとの実質的判断は一切されません。
また、司法書士としても、個々のご家庭の状況や過去のいきさつを判断することが困難な為、形式的に判断をせざるを得ないのが現状です。
しかしながら、明らかに不自然な上記事案につき、依頼者である長女に弁護士を紹介し、遺言無効確認訴訟を提起した結果、訴訟の継続中に長男が遺言を偽造したことを自白し、長男へ相続させるとした遺言は無効となりました。
遺言を偽造した者は、民法上相続欠格者(相続する権利をはく奪された人)として扱われる為、当該長男は遺留分もはく奪されたので、無事長女へ相続させる手続きを終了させました。
実際の手続きにおいては、字体等の実質的な部分に触れず、審理が進められる為、疑義が生じる場合は、遺言無効確認訴訟等を検討してみても良いかもしれません。
執筆:司法書士法人 鴨宮パートナーズ