家族信託を行うメリット
公開日:2020-11-28 15:33
目次
家族信託のメリットは以下のとおりです。これらは後見制度や遺言書では実現が難しいものばかりです。
(1)親の財産管理が容易に行える
老後の資産管理を長男に任せつつも、そこからの収益は自分に帰属させたい場合には、父親を委託者兼受益者とし、長男を受託者とします。
これにより、管理と収益を分離することができ、親が認知症になっても財産の管理に支障をきたしません。さらに以下の利点を享受することもできます。
・財産管理行為に第三者の同意を取る必要がない。
・贈与税を支払う必要がない(長男に贈与したわけではないため)
・高齢者を標的とした詐欺への対策ができる
・財産管理を始めるまでの期間を短くすることができる
(2)家族信託には倒産隔離機能がある
家族信託には、将来委託者や受託者が信託財産に関係のない部分で多額の債務を負ってしまった場合でも、信託財産は差押えられないという機能があります。そのため、子を受益者とする家族信託を組んでおけば、万が一委託者や受託者が多額の債務を負ってしまったとしても、子の利益は確保されます。
(3)ご本人が亡くなった後の、配偶者の生活に備えることができる
例えば、自分が亡くなった時、配偶者たる妻が認知症になっていた場合、その方の今後の生活はどなたが支えることになるのでしょうか?
遺言書を作成しておけば配偶者に財産を残すことはできます。しかし、配偶者が認知症を発症していれば、老人ホームやアパートの毎月の費用の支払はご自身では難しいですし、賃貸契約の締結や更新もできなくなっているはずです。これでは、財産はあっても自力で生活することはできません。
そこで、あらかじめ家族信託で財産を子供等の受託者名義に変えておくと、その子供は親に代わって賃貸契約などすべてに対応することができます。また、家族信託の内容として「自分が亡くなったら受益者は妻に変更する」と定めることで、信託財産は妻に帰属し、遺言を書いたのと同じ効果を得ることもできます。
(4)財産承継の道順をつけることが可能になる
家族信託を利用することによって、遺産相続の道順をつけることも可能になります。一般的な相続対策には「生前贈与」や「遺贈」を利用したものがありますが、「生前贈与」や「遺贈」は、次の財産承継人を決めるだけで、さらにその次の承継人を指定することはできません。
一方、家族信託を利用すれば、第一受益者、第二受益者を指定することによって、財産の承継の道順を決めることもできるのです。
(5)事業継承の際にも便利
相続がいつ発生するのかは誰にも分かりません。
もし株式の評価が高い段階で相続が発生すると、相続税の支払いが大変になります。
また、これを避けるため、生前の株式の評価がほとんど無いに時期に株式の承継をするケースも考えられます。しかし、ご自身が引き続き会社の経営を行っていくご予定なのであれば、この段階で株式を手放すのはためらうはずです。もし後日に株式を引受けた後継者と意見の対立が生じれば、自らが解任されるリスクがあるからです。
そこで、株式の評価がゼロに近い時期に委託者と受託者を本人、受益者を後継者とする自己信託(家族信託の一部)を行うと、贈与税不要で将来の事業承継に備えつつ、かつ従来どおり議決権を行使することもできます。事業承継をお考えの方は自己信託を行うことを検討してはいかがでしょうか?
(6)二次相続を指定できる
前記(4)でお話のとおり家族信託は、二次相続を想定した相続対策としても有効な手段となります。
遺言書で指定できるのは、被相続人が亡くなった時の一次相続の方法についてのみに制限されます。例えば、一次相続の被相続人Aは財産を相続人Bには相続させたいが、Bの相続人であるCには相続させたくない場合、遺言書ではAのご要望を満たすことは難しくなります。
しかし、家族信託であれば、「AはBを財産の受益者とし、Bが死亡した後はDを受益者とする」との信託条項を定めることにより、Cに相続させることが可能になります。
(7)不動産の共有問題・将来の共有相続への紛争予防に活用できます。
共有不動産は、共有者全員の同意がないと処分することができません。そのため、複数の相続人がひとつの不動産を共同相続してしまうと同様の問題が生じて、遺産が塩漬けになってしまうことがままあります。
そこで、共同相続が避けられない場合、家族信託を活用して管理処分権限を共有者の一人に集約させると、不動産の塩漬けを防ぐことができます。
(8)教育資金の一括贈与が1500万円まで可能になる
孫の教育資金を1500万円まで非課税で贈与できるという制度があり、この制度を利用した信託商品などが販売されています。
これらの商品は「商事信託」とも呼ばれ、信託銀行等に手数料を支払う必要があります。一方、家族信託で同じ仕組みを作れば、こうした信託銀行への手数料は不要となります。
(9)後見制度や遺言制度上の義務・制約から解放される。
成年後見制度には、主に以下のような義務や制約・負担が存在します。
・家庭裁判所に対し、毎年報告しなければならない
・資産の積極活用や生前贈与などの相続税対策が行いづらい
・任意後見の場合、成年後見人は、本人の判断能力が衰えるまでは財産の管理はできない
また、遺言書の場合、法律で定められた作成方法に厳格に従う必要があり、遺言書をご自身で作成される場合、これに沿った内容にしないと遺言書が無効となってしまう可能性が生じます。
しかし、家族信託であればこうした義務や制約から逃れることができ、かつ後見や遺言よりも柔軟な対応が可能となります。
執筆:司法書士法人 鴨宮パートナーズ